新育種技術による改良ジャガイモ:野外栽培試験の開始へ
弘前大学農学生命科学部の研究グループ(代表 赤田辰治准教授)は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の生物機能利用研究部門との共同研究により、同機構の施設における「接ぎ木を利用した新育種技術(エピゲノム編集体獲得法)」によって改良されたジャガイモの野外栽培試験を4月26日から開始します(弘前大学、農研機構)
農研機構と弘前大学により世界初の手法で作られた改良ジャガイモの野外試験栽培が始まったという話題
この手法の何が新しいかというと、ジャガイモなどの苗を作るときに穂木(上部)に遺伝子操作を加え、そちらから目的遺伝子をサイレンシングする効果を持つ人工の遺伝子情報(小干渉RNA)を台木部分(地中部・ジャガイモではイモが生産される場所)へと輸送することで、収穫されるジャガイモ自身の遺伝子情報には手を加えずに目的の遺伝子操作効果を発揮することができることである
エピゲノム編集されたこのジャガイモはDNA配列に変化をもたらすことなく、しかしその遺伝子ノックダウンされた性質は、これを種イモとして増殖した次の世代にも形質が遺伝しているという
今回野外での試験栽培が始まったのはこの手法により得られた種イモを使って通常の栽培方法で栽培するという内容である
組み換え体の作成及び接ぎ木は試験管内および閉鎖空間で行われている
現行の基準ではこの遺伝子編集ジャガイモは遺伝子組み換えの対象にはならず、食品として利用されたときにも表示の義務もないはずである
しかし今回世界初の試みということで通常の遺伝子組み換え作物の場合と同程度の基準での試験栽培が開始されたということだ
弘前大学はリンゴなどでも同様の手法で台木に組み換えを行い、接ぎ木により導入遺伝子の残らない遺伝子編集リンゴを生産する試験も行っているようだ
ただしこの場合はジャガイモの場合と異なり台木が組み換え体であるため普通に遺伝子組み換え作物を生産する場合の栽培基準が必要となる
また、同時期に農研機構が遺伝子編集イネの試験栽培も申請している
これはCRISPR-CAS9を利用したゲノム編集であり、こちらも従来の外部から遺伝子を導入する遺伝子組み換え技術とは異なり自身の遺伝子内の組み換えやノックアウトによるもののため、最終生産物がどのような扱いになるのかはまだ正式には決定していない
これらの新育種技術(New Breeding Techniques, NBT)によるゲノム編集作物には現在一定の基準というものはなく、個別に事案が判断されている現状である
実際に外国でも米国では組み換え表示必要なし、ドイツでは通常の遺伝子組み換え作物と同様の区分にするという風に判断が分かれている
日本でも近い将来にこのジャガイモが商業生産される段階が来れば、その判断に注目が集まるときが来るであろう
あの山中伸弥氏曰く「この25年の中で、おそらく最も画期的な生命科学技術」と言うゲノム編集技術
その概要を知るには最適の一冊である