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高かった「ユッケ」再び庶民の味に戻ってくる? 新殺菌法注目…レバ刺しにも有効?

      2016/09/07

ユッケが簡単に食べられるようになるのか?

今や高根の花となった焼き肉店メニューの「ユッケ」。高価格となったのは、肉を殺菌するための加熱で可食部分が少なくなったことなどが理由だ。ユッケを庶民の手に取り戻そうと、京都大などの研究グループは殺菌法を研究。その成果が7月にまとめられ、注目を集めている。ユッケが安くなるのはもちろん、今は飲食店で食べられないレバ刺しの復活にも期待がかかる(産経新聞 yahooニュース)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160903-00000529-san-life


 

新たな食肉の殺菌方法に注目が集まっているというニュース
さて、この記事は京都大学の7月21日の発表の論文をもとに書かれている

貝殻成分由来の新たな除菌剤を開発-生食用食品への殺菌法を提案- (京都大学)

この中では一言もユッケやレバ刺しについて利用できるなどとは触れられていないことに注意してほしい
インタビューなどでは意欲を示しているようだがこのようにすぐにでも実現されるかのような見出しは誤解を産む元となるだろう

今回紹介されているキンコロスウォーターはアルコール、乳酸ナトリウム(抗菌作用あり)、焼成カルシウム(実態は水酸化カルシウム)の混合溶液なので、見出しで錯覚するような貝殻成分に画期的な特殊効果があることが発見されたという論文ではない
焼成カルシウムはアルカリ性水溶液ということで殺菌作用があることはすでに知られている
むしろ後半の浸漬処理中に高速洗浄機や超音波処理などの物理処理を組み合わせることで殺菌作用を高めるというところがこの論文の肝である

ただ単に物質を液体に浸すだけでは意外なほど表面全部に液体が触れることは難しい
対象物の凹凸に存在する気泡などを今回は水圧や超音波による振動で追い出すことで殺菌作用のある溶液と食品を良く接触させることで殺菌効果が安定するのであろう

簡易な手法で殺菌効果が高まるということであれば今後の実用化も含めて評価される研究である
ただ京大がわざわざプレスリリースする程の物では無いと思うが…
また論文タイトルに貝殻由来の新規除菌材を開発というが、発表されているpdfファイルを読む限りは特に新規開発しているような記述は無い
成分的にも貝殻由来の焼成カルシウムと合成された水酸化カルシウム使用で差異があるとは思えなそうな内容である
また表面処理で済む肉の部位と違ってレバーなどの内部に病原がある食材にはまず流用出来る方法ではないと思われる
このあたりの詳細は9月26日に予定されている学会発表を待つしかないだろう

さて、殺菌作用のある物質といえばいくつかあるが、その作用機構により対象となる菌やウイルスによって効果があるものやないものが分かれている
今回注目しているO-157は細菌なのでアルコールが有効であるが近年猛威を振るうノロウイルスなどはアルコールや酸では効果がない事に注意が必要である(なので今回機構の異なる殺菌剤の3種混合液であるキンコロスウォーターは広い殺菌スペクトルを示している)

食品に使える殺菌方法で次亜塩素酸がある
これは殺菌範囲も広く、流水で洗い流せる有用な方法なのだが食品に独特の匂いが付いてしまうので生食用の食品には使いにくい

またγ線照射なども研究されているようだが(現在はジャガイモの発芽停止のためだけが食品で許可されている)食品に異臭が付くことと、現場に放射線照射機を導入するにはコストがかかりすぎるといった問題があるようだ

ユッケやレバ刺しには魅力を感じる人も多いだろうが食中毒事故の増加を受けての生食規制である
食中毒に対しては加熱が最も確実な対策であることを考えて食事に臨んでいきたいものである

 - サイエンス