農トピ

農業や科学に関する話題やニュースを紹介

フランスに鹿児島県枕崎の会社が鰹節工場を建設 その背景に発がん性物質が

   

鰹節

和食の土台である鰹節

本物の日本のだしを欧州に−−。鹿児島県枕崎市に本社を置く水産会社「枕崎フランス鰹節」(大石克彦社長)は、フランス西部ブルターニュ地方のコンカルノーに初の本格的なかつお節工場を完成させ、31日完工式を開いた。和食人気が定着した欧州で、味の決め手となるだしの原料を現地生産する

同社によると、日本などに向けた製品を作る工場を東南アジアに設置した例は過去にあるが、欧米市場向けに日本のかつお節を現地生産する工場は初めて(毎日新聞)

http://mainichi.jp/articles/20160901/ddm/008/020/045000c


鹿児島県枕崎市の会社がフランスに鰹節工場を作ったというニュース
この見出しだけ見るとそのまま流されそうなニュースであるが、その背景をみるとそのままでは済まされない問題があるようである

ヨーロッパなどでは近年日本食が人気であるが、その味の基本となるものとして鰹節からとる出汁が重要な役割を果たしている
その鰹節の製法とは

1・生切り
2・釜立て(沸騰すると身が傷つくので、煮立たせないように慎重な温度管理を要する)
3・骨抜き
4・焙乾 - 燻蒸して乾燥させる。必要に応じて幾度か繰り返す。この行程を途中まで行った物が「さつま節」、終えた物が「荒節」
5・天日干し・カビ付け - 天日干しで乾燥させる。その後純粋培養したカツオブシカビを噴霧し、閉め切った室に入れ、カビを繁殖させ熟成させる
6.カビが繁殖したらこれを削り落とし、カビ付けを繰り返す

全国削節工業協会・鰹節のできるまで)となっている

さて、乾燥し保存のきく状態となった鰹節ならば本来日本から直接製品を輸出すればよさそうだがそうはいかない現状がある
実は4番の焙乾に使用する煙や原料魚に含まれる油脂の燃焼煙が原因となって発がん性が認められる物質であるベンゾピレン(IARCではグループ1区分)が多く含まれており、これに厳しい基準値を設定しているEUでは鰹節は輸入禁止食品となっている
先日のミラノ万博で日本からの鰹節が持ち込めなかったのを覚えている方もいるだろう
ミラノ博覧会で発覚!「かつお節事件」の衝撃(東洋経済オンライン)

またこの物質は韓国製即席めんの回収問題にも関係していた物質でもある
(ただしこの事件は科学的根拠がないまま、韓国食品医薬品安全庁が製品を回収させたことが混乱の原因と言われている)

かつお節に含まれるベンゾピレンの量は約25μg/kgとのことでEU基準の5.0μg/kgからすると約5倍ということになる
(ただし前述の削節協会は日本の基準値の内ではあるし、鰹節を出汁として使った食事で摂取する量からするとベンゾピレンの摂取量は少ないと反論している)
高級な鰹節は何度も燻製を繰り返す上にカビまで利用して限界まで水分を減らす特殊な製法のために重量当たりのベンゾピレン量が、EU内でも製造流通しているソーセージなどの燻製物より格段に多くなってしまうのである

さらにEU圏内で製造された物と比べて外国で製造されたものに関しての検査が非常に厳しいことも相まって今回現地工場の建設ということに至ったわけである
EUはカビの食品利用にも厳しいためおそらくカビ付けはしない荒節までの製造で、燻製での乾燥回数も減らすなどの現地対応の製法ということになるだろう
これでは日本の本枯れ節(水分13%以下)までの高級品は作れないと思われるが、日本の4割の鰹節を生産するといわれる枕崎の技術ならば風味の遜色ない品を製造できるのかもしれない

今回は日本の文化の特殊性がその輸出の弊害となった例であるが、各国で食品の文化が異なる以上、その想定にない食品などにどのように対応するかというのは今後議論されるべき内容であるだろう
外国から見れば異質な文化であることがその魅力である
外国人にとってもフランスで生産された本来の製法ではない鰹節よりも、日本で生産された伝統的な鰹節を入手したいという思いはあるのではないだろうか

 - 農業環境