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食べられない 埋め切れない 捕獲獣 広域で焼却 処理の悩み解決

   

イノシシ

捕獲後処理しきれないイノシシへの対策とは

 

田畑を荒らすイノシシや鹿を捕獲し、広域で処理する仕組み作りに乗り出す自治体が出てきた。田畑を荒らす野生動物は地域資源として野生鳥獣の肉(ジビエ)で流通させるのが理想だが、加工施設が遠い、捕獲後すぐに食肉処理ができないなど、鮮度が保てない場合は土を掘って埋める重労働を余儀なくされる。追い払いや柵の設置など鳥獣害対策は近隣自治体と協力する地域が増えており、捕獲後の“出口対策”でも自治体の垣根を越えた連携が広がっている。(yahooニュース 日本農業新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170209-00010003-agrinews-soci


 

捕獲したイノシシやシカなどの野生動物を処理する施設として広域で焼却処理に取り組む動きが出てきたという話題

まず前提として震災の影響を受けた福島県の事例であるという点に注目である
震災以降無人になったり過疎になった地域は多く、野生動物の楽園となった東北地方では野生動物が急激に増加しており、それらのもたらす獣害は深刻なものとなっている
無人となった市街地に慣れているため平気で集落近くまで出入りするということである
さらに注意する点としては震災による放射性物質の拡散により、該当区域内では現在でもイノシシなど野生動物の肉から基準値以上のセシウムが検出される事例が報告されている(参考:厚生労省 食品報道発表1月分
今年の1月でも最大4,000ベクレルの個体も見つかっているようだ
日本ではすでに終息したように感じる震災の影響だが、海外ではいまだに多くの日本産食材が放射性物質の関係で輸入禁止となっていることは忘れてはならない
参考:諸外国・地域の規制措置(農水省、平成29年1月版、PDFファイル)

このため害獣駆除として捕獲はされたものの食肉としては流通できないイノシシが数百頭も冷凍庫に積みあがっていた時期もあったようだ
イノシシなどの大型野生動物を埋めて処理するとなると数メートルサイズの穴を掘る必要があり、その労力は大変なものとなる
また既存の焼却施設に持ち込むにはチェーンソーで切り刻む必要があったらしく処分に困り果てていたようだ

これを受け相馬方部衛生組合は、昨年4月から捕獲した有害鳥獣専用の焼却処理施設を稼働させたという
工事費の約1億6000万円は、農水省の補助金と復興交付金などを活用したとのことである
このニュース自体は昨年4月に話題となったが、この施設に対して福島県の他の地域から広域でイノシシなどを処理させてほしいという声が上がっているという

他県でも同様の動きが広がっており福井、京都、北海道でも複数の自治体が連携して焼却施設を共同運営している
ジビエでの利活用が進んでいても、現在は捕獲した鹿のうち食肉に加工されているのは1割にも満たない程度である
また食肉に加工される品質でない個体が持ち込まれたり、加工されたとしても廃棄物が出るのは避けられない
このため多くの自治体が焼却場建設に関心を示しているという
農水省は「広域であれば建設費の負担が軽減できる。現場では収集車で集めるなど運搬の労力を減らす工夫をしている」(鳥獣対策室)と説明する

ところでこの記事の最後に岐阜大学の森部絢嗣特任准教授の言葉で
「出口対策が整わなければ捕獲は進まない。地域で無理なくジビエなどに資源化することがまずは望ましい」と書いているがこれには一言注意しておきたい
(この記事での焼却処理はそもそも放射性物質の影響で食肉に加工できないイノシシについてなので記事の作りに問題がある点は置いておくとして)

環境省はシカとイノシシの個体数を適切に管理するためには捕獲数を現在の2倍に増やす必要があると分析している
環境省:いま、獲らなければいけない理由(PDFファイル)
これは大変な課題であるが、仮にこれが実行に移されたとしてその出口をジビエとして資源化するということになれば多くの日本人が毎日1食はシカやイノシシの肉を食べるレベルまで普及させることが必要となるだろう
しかし商業的にジビエ肉を流通させようと思えば食肉処理業と食肉販売業の許可が必要となる
ハンターが現地で放血以外の処理を行った肉は現行の法律では違法なものとなり、販売すると処罰の対象となってしまうのである(自家消費ならば問題ない)
また食肉としての品質の安定を考えると捕獲方法から止めを刺す方法、食肉処理場までの運搬まですべて見直す必要も出てくるだろう

害獣として捕獲した野生動物をジビエとして無駄なく利用するというのは理想としては素晴らしいものだ
しかしそれが必須のものとして一般に認識されてしまうことは鳥獣害の被害対策を担当する者にとって大変重い枷となるだろう
予算や人的資源には限りがあることを思い返しておいて欲しい

もう一つ、実はここ10年でもイノシシやシカの捕獲数は3倍以上に増えている
参考:捕獲数及び被害等の状況等(環境省)
それでもイノシシの個体数は横ばい、シカの個体数は増加傾向にある
これを考えると猟師による捕獲が現在より多少増えたところで、それだけでは農業被害を減らすことはできないと考えるべきである
ハンターの活動範囲のシカやイノシシは一時的に減らすことが可能かもしれないが、結局そこに空いたスペースへとハンターの手の届かない森林の奥地から別のシカが供給されることになるからである
農業被害を減らすためにはまずは農業者自身が主体となって鳥獣害に対する知識を身に着け、適切な対策をとることが前提であろう


 

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