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ワイン「ご当地」表示できない!?…来年に新基準

   

大分県の安心院などは地元産ぶどうを利用したワイン生産が盛んである(写真は安心院産スパークリングワイン)

大分県の安心院などは地元産ぶどうを利用したワイン生産が盛んである

北海道産のブドウ不足

「十勝ワイン」や「おたるワイン」など、「ご当地」を表示したラベルが変わりつつある。
国の新たな基準で、ご当地で収穫したブドウを85%以上使うことなどが地名表示の条件になったが、製造量に見合うワイン用ブドウが道内では足りそうにないためだ。来年10月末の基準導入を前に、道内のワイン製造業者は、ブドウ増産や表示の工夫などの対応を急いでいる。新たな表示基準は、「日本ワイン」を国内で収穫されたブドウのみを原料とし、国内で製造されたものと定義。ご当地表示は、日本ワインのうち、現地で収穫したブドウが原料の85%以上で、現地で醸造することが必要となる。国が定める初めての基準で、2018年10月末から運用される。(読売オンライン)

http://www.yomiuri.co.jp/hokkaido/news/20170515-OYTNT50205.html


 

ワイン表示に関する基準が改定されるにあたり、北海道のご当地ワインが現行の表示を続けるためには原料のブドウが足りなくなるという話題
これまでは「国産ワイン」として販売されているワインは業界の自主基準しかなく、輸入したブドウ濃縮果汁を使用したものも国内醸造していれば国産ワインを名乗ることができた
新ルールでは日本産のブドウのみを利用して作られたワインのみが「日本ワイン」を名乗ることができるようになり、その中でも85%以上が特定の地域産のブドウを使用しており、その地域で醸造していればご当地の名を冠したワインを名乗ることができるようになる

これは2015年に国税庁の定めた新ルールで2018年の10月から施行されることになっている
世界を見るとワインの歴史を持つ地域ではワインの表示についてはそれぞれの国で、ワインに関する法律で定められた明確な基準があり、日本のように海外で作られた果汁を利用したものではワインを名乗れないような国も多い
日本では酒税を取り仕切る国税庁がこの辺りを管轄しているためこれまで緩い基準のまま来てしまったのが問題の原因の一つである

業界では対応の進んだメーカーもあるようだが、十勝ワインでは対応に苦慮しているという記事である
何しろ基本的に北海道ではブドウ栽培自体が難しく、これまでの十勝ワインのほとんどが実は海外から輸入されたブドウ果汁(濃縮還元ジュース)を利用して製造されていたからだ
原料が農産物である以上、改定が決定してからわずか3年程度で増産、醸造条件の確立とはいくわけもなく来年には十勝ワインの多くが店から消えることとなるだろう
逆に以前より地元産のブドウを使用して自主的に「日本ワイン」と表示して醸造していたワイナリーなどはこの改正をチャンスととらえているようだ

現在の国産ワイン生産量一位の県は神奈川県である
特にブドウの産地でもない神奈川県が一位になるのはメルシャンの藤沢工場があるからである(濃縮還元ぶどう果汁でワインを生産している)
新ルール施行後は国産ワイン生産量の順位は大きく変動することになるだろう

輸入濃縮果汁を使って国内醸造の美味しいワインを作ること自体は否定されるべきことではない
海外で作られたワインを輸入するのと違い、良質な水や気候で日本人に最適な味に仕上げることができるし、輸送の際の品質低下やコスト増などの心配もなく合理的な面も多い
ただこれまでのようにそれが国産ワインを名乗っていては、内情を知った消費者は「騙された」と感じるのが当然だろう
逆にきちんとその内情とメリットを消費者に伝えることができれば普段飲むワインとしては魅力に感じる消費者も居るはずだ
結局は正しい内容を正当に表示することが消費者の信頼を得る近道となるのではないだろうか

記事にあるような対策として、製造者名に「十勝ワイン」と記すなどといった小手先の対応ではいずれ消費者が離れていくことだろう


 

数々の賞を受賞している安心院産スパークリングワイン

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