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カリフォルニア州がモンサント除草剤を発がん性認定へというニュースの詳細

      2017/07/06

カルフォルニア州独自の化学物質規制プロポジション65によりグリホサートに表示義務が課せられた

カルフォルニア州独自の化学物質規制プロポジション65によりグリホサートに表示義務が課せられた

[26日 ロイター] - 米カリフォルニア州は26日、米農薬・種子大手モンサントの人気商品である除草剤「ラウンドアップ」に含まれる有効成分グリホサートについて、7月7日から発がん性物質のリストに加えると発表した。
同州の環境健康危険評価局の説明によると、モンサントは裁判所にリスト掲載の差し止めを申し立てたが認められず、同州は掲載の手続きを進めることになった。
モンサントは既に控訴しており、リスト掲載について「科学および法律に基づき正当化できない」と抗議した。(yahooニュース ロイター)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170627-00000069-reut-bus_all


 

以前に話題に挙げたラウンドアップの発がん性に関しての話題である
欧州委員会、除草剤グリホサート認可を18カ月延長

こちらの記事でも書いたが、2015年3月に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを「おそらく発がん性の可能性がある」というグループ2Aに分類すると発表した
このこと自体が当時かなり話題となったが、発がん性ありと判断した理由があいまいなままだったので科学者などから異論も出ていたことは先の記事で書いたとおりである
その後、判断理由が4か月後の7月に公開されたがその内容もいまいち確信のおけるものではなく、関係者は拍子抜けしたということである
詳しくはfoocom.netのグリホサート発ガン性ランク付け騒動その後 IARCは根拠情報を公開したがを参照いただきたい
引用すると

グリホサートの場合は2A評価だったが、人では集団規模で5本、個別事例で14本の研究(論文と公的機関の報告書)が検討され、いずれも人への発がん性を強く支持するデータはなかった(限定的証拠)。
問題は動物実験の方で、マウスで3本、ラットで7本の研究が検討された。マウスの1本は処理期間が短いなどデータ不十分で採用せず、残りの2本でも尿細管や赤血球反応に有意な差を示す実験群があったが、差のない場合もあるというどちらにも取れそうな内容だが、IARCはこれらのデータを発がん性と強い相関を示したと判断した

とのことである

また欧州食品安全機関と欧州化学機関は17年3月にグリホサートに発がん性なしという報告を挙げている
欧州化学機関 グリホサートの発がん性否定の評価(有機農業ニュースクリップ)
いずれにせよ発がん性があるとIARCが分類したことでいろいろな分野で動きがあり、ヨーロッパなどでは個人利用が禁止になったり、学校や公園での使用を制限に向かっている国もあるようだ

ここで本題のアメリカだが、連邦法としてはTSCA(米国有害物質規制法)というものがある
しかしアメリカは州での独自性がかなり高く、TSCAより厳しく州法で化学物質を規制しているところもあり、その中で最も有名なものが今回話題になったカルフォルニア州のプロポジション65(Proposition65 Safe Drinking Water and Toxic Enforcement )である

プロポジション65は1986年制定の法律で有害物質の有害物質混入や人への暴露防止を目的とした法律であり、カルフォルニァにある企業と取引する場合は準拠する必要がある規制物質は約900物質で物質リストは以下のページに記載されている
https://oehha.ca.gov/proposition-65/proposition-65-list(英文)

数百種に及ぶ英語リストなので詳細に読むのは困難だが、農トピとして気になった物質名を列挙すると
クロロタロニル(農薬、商品名ダコニール)、パボナ殺虫プレート(アース)、イマザリル(輸入果実に使用される防カビ剤)スピロジクロフェン(農薬、商品名ダニエモン)スピロノラクトン錠(田辺製薬、利尿剤)アクチノマイシンD(抗生物質)、アルドリン(大昔に廃止されたが未だに土壌中から残留が検出されることがある農薬)、シクロホスファミド(商品名エンドキサン 塩野義製薬、抗がん剤)、クレソキシムメチル(農薬、商品名ストロビー)、マラチオン(マラソン、殺虫剤)、マンコゼブ、マンネブ(農薬ジマンダイセン、エムダイファーなど)
などがリストに入っているようだ
ベンゾピレンも対象なので鰹節を販売するときもこの基準に抵触するだろう
当然アルコールやたばこなども対象物質となっている

このリストに入るとカルフォルニア州での販売を行う際に発がん性などの表示義務が生じるらしい
過去には電気コード内の鉛が問題となって日本製品が差し止めにあった事例などがあったようだ

さて、今回の話は農薬の取り扱いに注意を促すということであり、一部の反応にみられるグリホサートを使用した農産物を食べると発がん性があるという風にとらえるのは少し飛躍しすぎている
基本的に選択性のない除草剤であるためグリホサートを農作物に直接かけることはないし、使用時も100倍程度に希釈して使用するものである
また、葉からは吸収されるが根からはほぼ吸収されない薬剤でもある
これらから言うと現在の日本の農業界で使用される範囲では農産物での健康問題を心配する必要はないだろう

問題となる可能性があるのは道路や公園など非農耕地での利用と、米国などで主流の遺伝子組み換え作物栽培時ではないだろうか
この場合は時間とともに耐性雑草が生き残り易く(GM作物との交雑での形質獲得ではなく植生の変化)それとともに使用量が増える傾向にあるようだ
グリホサート耐性作物を栽培している地域では作物での残留が検出されたり、地下水から検出されるなどの汚染が進んでいるケースもあるという
現在の日本では無い例だが、これらの地域や農業従事者において疫学的に発がん率で有意な差がみられるという報告がもし上がってくれば、日本でも表示義務を議論する必要が出てくるだろう

ただし世界的に使用量を控える流れになりつつあるグリホサートだが、日本では実は一部の作物で残留値の大幅緩和が予定されている
厚生労働省は小麦で現在の基準値5ppmを30ppmと6倍、そばとライ麦は0.2ppmが30ppmへ150倍に、テンサイは0.2ppmが15ppmへ75倍と大幅に緩和するる案を示しているようだ
これは当時確定的だったTPPによる輸入農産物増加に対する事前対応措置だったのではと思われているが、日本で栽培している農産物で新基準ほどに残留が検出されるようにならないように注意しておく必要があるだろう

(追記)
長くなったので要約
・グリホサートは2015年にIARCによって発がんリスク2Aに指定された
・科学的証拠は賛否両論で欧州や米国の化学機関は発がんリスクに否定的
・カルフォルニアにはProposition65という州独自の法律があり、化学物質の安全性に関する厳しい表示義務がある(米国全体としての化学物質表示に関する法律ではグリホサートは普通物質)
・今回2017年6月に裁判結果がでて、グリホサートを含む除草剤に発がん性のある物質であるという警告ラベルの表示が義務付けられた
・ただし販売や使用を制限する法律ではないのでおそらく実際の農業現場では通常通りに使用されるだろう


 

こちらが実際のプロポジション65の実際の警告表示ステッカーとのこと

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