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欧州委員会、除草剤グリホサート認可を18カ月延長

      2016/07/29

ラウンドアップ

ラウンドアップはグリホサートを成分とした代表的な除草剤

欧州委員会は、欧州食品安全機関(EFSA)と各国機関による非常にしっかりとした科学的評価を考慮して、グリホサートの認可を2017年末まで期間を限定して延長した。2017年末までに欧州化学品庁(ECHA)が追加の意見を出す予定である。また同時に、委員会は加盟国に対してEU内でのグリホサートの使用条件に制限をかけることを提案している。この条件には、グリホサート製品での補助剤(POE-tallowamine:ポリエトキシル化獣脂アミン)の使用禁止、収穫前使用の監視強化や特定地域(公園、運動場)での使用低減の義務化を含む。(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)

http://www.nihs.go.jp/hse/food-info/foodinfonews/2016/foodinfo201614c.pdf(PDFファイルです)


 

6月30日で使用認可が期限切れとなる除草剤グリホサートの使用期限が1年半延長されることになったという話題

まず流れを説明すると2015年3月に国際がん研究機関(IARC)がグリホサートを「おそらく発がん性の可能性がある」とグループ2Aに分類すると発表した
その後EU内でグリホサートを禁止する動きが起こったが、6月30日に使用認可が切れるために、その後認可の再延長が認められるかどうかが注目されていた(通常通り認可されれば15年間有効となる)

今回、FAO/WHO残留農薬に関する合同専門家会議(JMPR)や欧州食品安全機関(EFSA)、また日本、米国など世界のリスク評価機関の報告ではリスクなしと判断されこともふまえ、使用認可を暫定的に2017年末まで延長して、欧州化学品庁(ECHA)が追加意見書を出すことに決定したという流れである

さて、そもそもの話の発端となったIARCの判断とはどのようなものだったのだろうか?
これは動物実験でグリホサートに発がん性があるという報告をもとにしているが、その際ヒトに対しては実験で発がん性が確かめられたわけではなく、特定のリンパ腫の人を調査すると他の健常な人よりもグリホサートの被爆量が多かったという聞き取り調査をもとにしている

これに関しては偶然によるものなのか、別の原因がリンパ腫の原因となり、その別の原因によりグリホサート使用量が多いという可能性もある
さらにこの聞き取りによるケースコントロールスタディ調査はあまり正確性がない、参考的な結果としてしか使用されない(限定的な証拠という:そしてそのあたりもこのIARCの発表にはきちんと明記されている)
逆に米国でのより正確性の高いとされる(もっとも強力な証拠に分類される)調査方法の大規模な農業研究では農業者やその家族とのグリホサート使用量とリンパ腫発生率の関係はないとされている

また、遺伝毒性がみられるという研究結果を用いているが、この場合はどんなに危険性が少なくても2A分類以上になる
しかしこのことも多くの科学者やFAO/WHO合同残留農薬専門家会議(JMPR)ではグリホサートを「遺伝子を傷害することはなく、発がん性もない物質」と認めている
同じ母体であるWHO内でも意見が分かれていることとなる

一般メディアの報道ではグリホサートに発がん性があるとだけ報道され、そのままタイトルのみを引用してグリホサートの危険性をことさら強調する団体などもあるが、このような詳細な内容まで一度目を通してもらいたいものである

ちなみにIARCが最近「おそらく発がん性がある」に分類したことで話題になったのは「熱いマテ茶を飲む」行為である
他にもシフト勤務することや美容・理容に従事することも2A分類である
IARCの区分は発がんの可能性のリスク区分であり、使用量などを含めた危険度の区分ではないことも注意しておきたい

(追記)
バイエルによるモンサント買収報道やイギリスのEU脱退による混乱など様々な不確定要因があるが、18ヶ月後に部分的な例外を除いて禁止になる確率は高い
これはグリホサートの危険性によるものではなくEUの過剰な農薬使用基準が米国からの農産物に対する非関税障壁として働いていることと、遺伝子組み換え植物とセットで除草剤を供給するモンサントへの嫌悪感からくる政治的、感情的要因が大きいようだ

 - 農政, 農薬