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4000トン追加輸入=バター不足を回避―農水省

   

輸入バター

今年もクリスマスに向けてバターの追加輸入のシーズン到来である

 

農林水産省は27日、バターを4000トン追加輸入すると発表した。

今年度のバター輸入は既に決めた分と合わせて1万7000トンとなり、十分な量が確保される見通し。クリスマス、バレンタインデーなど今冬の需要期を迎えても、バター不足を回避できそうだ。

追加輸入は、バターの原料となる生乳の生産減少が見込まれるため。主要な産地の北海道が大型台風に見舞われて停電や断水が相次ぎ、乳牛が体調を崩した影響が大きい。西日本も猛暑によるストレスが生乳生産に悪影響を与えかねないと懸念されている(yahooニュース 時事通信)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160927-00000132-jij-pol


 

さて、今年もバターの緊急輸入の時期の到来である
今年はすでに1月と5月の時点で合計1万3000トンの輸入が決まっていたが、今回の追加決定の理由はこの夏の北海道大雨被害による生産減が影響しているようだ
1月と5月の時点では特に牛乳生産が低下する話題はなかったと記憶しているが…

農林水産省の態度はこちら:バター不足に関するQ&A

バター不足は2002年ごろより始まったと言われ、原因にはバターを作るときに同時に生産される脱脂粉乳の需要低迷により、バターの生産量を調整せざるを得なかったからと言われている
その脱脂粉乳の需要の低下は2000年の雪印の集団食中毒事件がきっかけになったと指摘する人もいる
この事件は停電によりタンクに貯蔵していた脱脂乳が常温で4時間以上放置されたことにより、その後の殺菌工程を通しても減少しない毒素(エントロトキシンA)が発生し、この脱脂乳を原料にして脱脂粉乳を生産したことによるものだと結論付けられている
また、日本人の過剰な本物志向と、過去の脱脂粉乳の品質が低く悪いイメージを持つ世代がいることによって脱脂粉乳=牛乳の紛い物的なイメージがついてしまったという声もあるようだ

加工原料乳生産者補給金等暫定措置法に基づく「指定生乳生産者団体制度(日本乳牛協会のページ)」が問題の根幹だと言われるが、これは補助金をもらうためには原則この組織にすべて生乳を出荷する必要があるというものである(現在は全量要件は少し緩和されているらしい)
これには大規模酪農を行う北海道産の牛乳が本土の酪農に打撃を与えないように抑制する意味合いもあるが、これにより加工用牛乳に出る補助金は実質は北海道産のものに限られている(加工用生乳の9割は北海道産であり、それを加工するのは北海道に本拠を置くメーカーである)

また、チーズは余っているのになぜバターに加工を割り当てないかといえば、農水省の行う酪農経営安定対策の加工原料乳生産者補給金制度(通称チーズ補助金)によりチーズ向けに割り当てた方が多くの補助金がもらえるからに他ならない
これは保存のきくバターや脱脂粉乳よりも消費期限の短いチーズを増産させた方が加工用価格を維持できるという目論見もあるだろう

さて、では本題のバターの不足を輸入で解消すればいいという話題になるが現実はそうはいかない
バターの輸入は国内の牛乳価格に大きな影響を与えるとして、コメや小麦と同じように国家貿易となっている

こちらは農畜産業振興機構(公式ページ)によるバター輸入業務の独占が問題と言われている
簡単に言うと輸入バターは1次関税、2次関税、そしてマークアップと言われる内外価格調整金を上乗せして再び機構からバターを買い戻すという仕組みとなっている
現在のバターの海外相場は近年下落を続け、30000ドル/1トンと言われている
仮にこれを輸入業者が輸入すると関税がおよそ30%+179円、さらにマークアップ806円が加わりおよそ1370円という結果になる
(原価を1キロ300円として計算・原価500円の場合はおよそ1600円)

ここから輸入業者の利益を入れれば国際相場の4倍から5倍ということになり、緊急輸入で入ったバターはどうしても必要な業者にしか手が出ないものとなり、一般人にとってのバター不足は解消されないのである
(バターの関税を単に29.8%という書き方をするのは正確では無いし、関税が300%という書き方も間違いである)

農畜産業振興機構が書類を動かすだけで多額の補助金を徴収するというシステムに異論を唱える向きも多いが、機構側の言う「すべて国が法律で決めたものだ。得た差益は酪農家への補給金に回っており、決して利権目的ではない」という理論は(その仕組みが価値があるかどうかはさておき)全く正しいものである
ここから先は政治の出番であろう

これだけバター不足により毎年追加輸入が行われるという事態が構造的問題と騒がれるようになったからには政府や農水省としても事態を放置することは好ましくないと考えているようだ
記事では「政府の規制改革推進会議は、全国に10ある農協系指定団体が独占的に生乳を集荷、販売する体制の見直しを議論。バター不足の解消に向け、流通の自由化を求める声が出ている」と結んでいる
ただしこれは逆に言えば様々な制度や補助金を利用して価格が維持されてきた国内酪農業界にとってかなり痛みを伴う改革になるのは間違いない


 

高級バターはまだ在庫があるようです

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