「味一ねぎ」商標使わせず 公取委、県農協立ち入り(11/4追記)
2017/03/28
大分県農協(JAおおいた)が特産の小ネギを生産する組合員の一部に「大分味一ねぎ」のブランド名を使わせないなど不当な扱いをしたとして、公正取引委員会は27日、独禁法違反(不公正な取引方法など)の疑いで、大分市の県農協本店を立ち入り検査した。
味一ねぎは主に県北部で生産される、大分県を代表するブランド野菜の一つ。県農協が商標権を持ち、首都圏などに出荷している。不当な扱いを受けたとされる組合員は農協以外にも別のブランド名で出荷していた。
県農協は「検査を受けているのは事実。全面的に協力していく。現在は調査中のため、詳細なコメントは差し控えたい」としている。「大分味一ねぎ」は、県が1次産品の生産・販売拡大を重点的に支援する「戦略品目」の一つ。
取り組みを推進してきた県農林水産部の担当者は27日、「公取委の調査内容が把握できておらず、現時点でコメントできない」と困惑気味に話した。 (大分合同新聞)https://www.oita-press.co.jp/1010000000/2016/10/28/JD0055141432
大分を代表するブランドの一つである「大分味一ねぎ」を取り扱うJAおおいたが公正取引委員会に立ち入り調査を受けたという話題
さすがに大分地元の新聞である大分合同新聞は他の全国紙より少し詳しく扱っている
他紙などを読むとJAが不当な圧力をかけたかのような報道内容となっているが実際の事情は少し複雑である
まず大分味一ねぎというのは小ネギのブランド名で、博多万能ねぎに次いで有名な小ネギのブランド名とされている
ネギのような野菜では大消費地でのブランドの確立には品質はもちろんのこと生産量(ロット)と年間を通した安定した供給というのが欠かせない
そのためかつて大分県内で複数に分かれていたJAが統合されたことをきっかけに、もともと中津農協で使用されていた「味一ねぎ」というブランド名に統一し、中津、宇佐、国東、杵築などの生産者が共同で出荷、販売を行うことになった経緯がある
結果、大量かつ安定した供給が可能となり全国でも有名なブランドとなった味一ねぎだが、一時期に価格低迷が起こったことがきっかけで、数件の大規模農家数件が独自に販売ルートを開拓し、そちらの価格が上回るときはそちらに販売し、価格が下がる時期にはJAに出荷するという事態になっていたようだ
このことは小ねぎの需給が季節によって大きく変動することも影響しているのだろう(冬場は生育が遅いので供給は下がるが、鍋物需要などで需要は高まるため相場が大きく変動する)
しかしこのことは前述のブランド維持のための安定供給という観点からは小ねぎ生産者グルーブ全体(以下小ねぎ部会)にとっては都合がよくないものとなる
そのため小ねぎ部会としては独自販売するならば小ねぎ部会はやめてもらう必要があるということで独自販売者は除名処分ということになった(以下離脱組)
離脱組は味一ねぎというブランド名を利用できなくなったが、そうすると独自販売ルートの取引相手も味一ねぎブランドでないならば店頭においても集客力がないということで、名前の使用されない業務用などの取引しかしてもらえなくなったらしい
離脱組にはブランド確立前から味一ねぎの名前を使っていた農家もいたようで、自分たちがその名前を使えないのはおかしいと公正取引委員会に相談したというのが話の流れであるようだ
離脱組は小ねぎ部会からは除名になったが、まだJA組合員であるためJAが商標を持っている「大分味一ねぎ」というブランド名は使えるはずだと争っているのである
他紙では公正取引員会が離脱組の言い分を支持しているようなニュアンスの記事になっているが、今回引用した大分合同新聞の記事では資料を持ち帰り調査に入った、とだけの記述になっている
過去に公正取引委員会がJAに立ち入った事例は事例集としてまとめられているが排除勧告まで出た例はわずかである
ちなみに一番有名な事例として同じ大分県での例が上がっているのは皮肉なことであるが、この例はJA直売所の近隣にできた農産物直売所に出荷した農家からの受け入れ拒否およびJA直売所への全量出荷圧力なので完全に違反な内容である
これ以外の過去の事例を見ても今回のように農協の持つブランド名が生産者団体に属していない者にも利用権があるのかどうかが争われた事例が無いようである
タイトルから連想するようなJAが不正を働いたという事件ではなく、離脱組の意見をもとに公正取引委員会が調査に入ったという段階なので、この後どのような判断がなされるのかはまだ分からないということは注意しておかなければならないだろう
個人的には離脱組によるブランド名の使用は認められず、施設の利用を制限していた部分に対しては警告が出るのではないかと考えている
でなければ小ねぎを家庭菜園で作っているだけの農協組合員でも「味一ねぎ」として道の駅や直売所で売ってよいということになってしまうだろう
JAの持つ商標な以上は販売物に関して何らかの責任が発生するばずで、もし何かトラブルがあった場合に農協の関与していない商品にまでその責任が及ぶ事になるのは問題があるからである
公取がどのような判断を下すかはまだ分からないが、農産物のブランドを保つというのは誰もが好き勝手な販売をやっていても維持できるほど簡単なことではない
ブランド名の使用に細かい規定のなかったJAの手落ちはあるだろうが、一方的に責められるようなニュースではないだろう
(追記)
NHKソースでは同様の事例として、高知県安芸市の農協が特産品のナスの出荷をめぐって農家に圧力をかけたとして、公正取引委員会が排除措置命令を出す方針を固めた例を上げているが、これは商標のあるブランド名の使用に関してでは無く、出荷強制と施設の利用制限の事例なので今回のねぎの事件で引き合いに出すのは内容の全く異なる事例であることには注意が必要である
(11/4追記)
2日の農業協同組合新聞電子版に
公正取引委員会から「大分味一ねぎ」を救え
というタイトルの記事が掲載されていた
小松泰信(岡山大学大学院教授)のコラムであるが、過激な単語を使いこの事件および安倍政権を批判している
ただこれだけ批判的な記事を書くのであれば当サイトで書いた程度の内容は調査してからにしてほしかったいうのが率直なところである
最初から批判目的の記事であるのかどうかは知らないが、ネットで読んだ紙面だけをソースとするのではなくせめてJAおおいたの担当職員の話でも聞いてからにするべきではなかっただろうか
訴えた方は単なるフリーライドではなく離脱以前のブランド確立時には間違いなく部会員として尽力していたことや公取はまだ調査に入った段階であり過去の事例を見てもJAが商標を所有するブランド名の使用には判断事例が無いこと、逆に施設の利用制限は過去の事例を見ても警告以上の判断がなされる可能性が高い事などが分かったはずである
多くの農業者が違和感を感じる今回の事件であるが、注目点はJAの商標の取り扱いに関する不備を公取がどう判断するかではないだろうか