農トピ

農業や科学に関する話題やニュースを紹介

GM表示見直し着手 混入割合引き下げ焦点 消費者庁

   

遺伝子組み換え食品の表示見直しに関して

遺伝子組み換え食品の表示見直しに関して

 

消費者庁は、遺伝子組み換え(GM)食品の表示制度の在り方で有識者による検討会を立ち上げ、表示対象の拡大を視野に議論に着手する。現行制度は2001年4月にスタートし、この間の分析技術の精度向上や、GM作物の栽培拡大・流通の変化などを踏まえる。表示義務がない混入割合は、現行は5%未満と他国に比べて緩く、どこまで狭められるかが大きな焦点だ。より詳しい表示ができれば、消費者の商品選びに役立ち、国産農産物に追い風になるとみられる。初会合を26日に開き、17年度内に取りまとめる予定だ(日本農業新聞 yahooニュース)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170425-00010003-agrinews-pol


 

遺伝子組み換え食品の表示制度が見直される見込みだという話題

現行制度は大豆、トウモロコシ、ジャガイモ、ナタネ、綿実、アルファルファ、テンサイ、パパイアの8種類の農産物に表示を義務付けており、またそれらを原材料とする豆腐、納豆、みそ、スナック菓子など33食品も表示の対象となっている
これまでは商業的に成功していた遺伝子組み換え作物(GM作物)は限られていたが、逆に言えばそれ以外の新しいGM作物は表示の対象外ということになるため、現代の遺伝子操作技術の進歩を考えると制度の見直しが必要な時期に来ていたともいえるだろう

現行の制度ではGM作物の使用重量が小さく、原材料に占める割合が上位4位以下や5%未満であれば、表示する義務はなかった
しかしEUではGM作物を使った加工食品の全てを対象に表示を原則義務付けているし、「意図せざる混入」が許されるのは0.9%未満までと日本よりかなり厳しい基準となっている

また、しょうゆや油、果糖ブドウ糖液糖などは加工工程でGM作物のDNAやタンパク質が分解され存在しないなどとして表示は任意となっている(ということは非表示のものはほぼGM作物を使用しているということになるのだろうが)
このような食品の原料の大豆、ナタネ、トウモロコシは主に米国やカナダから輸入されているが、そこではGM作物の占める割合が9割台に達していることから察することができるだろう

少し意外だったのは加工業者が仮に制限が厳しくなっても大きな影響はないとみていることだろうか
多くの業者が検出技術を高めており、「意図せざる混入」が厳しく制限されたとしても対応できるとのことである

すでに食品業界ではコストを下げられるGM作物使用食品と、GM非使用によりブランド力を高める食品との2極化が進んでいるということなのだろう

遺伝子組み換え食品に対する日本での議論が深まるきっかけになればいいという声も記事にはあったが、日本では遺伝子という言葉は何か恐ろしいものというイメージが先行してそれ以上議論が進行していないように思える
一方遺伝子操作の先端でのアメリカでは2月に遺伝子操作されたリンゴが販売開始されて一部で話題になった
米国 遺伝子組み換えリンゴが店頭に 2月から試験販売(有機農業ニュースクリップ)
茶色にならない初の遺伝子組み換えリンゴ、米当局が販売認可検討(ウォールストリートジャーナル)

これは遺伝子サイレンシングによる酵素の働きを停止したものであり、これまでの大豆やトウモロコシのような外来の遺伝子を導入して、それらから直接的な効果をもたらす遺伝子を発現させるものとはまったく異なるアプローチである
さらに以前の記事で上げたマッシュルームでの手法はCRISPERによる作物自身の持つ遺伝子の組み換えであり、これに関してはFDA(米国食品医薬局)は組み換え表示自体必要ないとしている
当サイト記事・従来の遺伝子組み換え作物とは違う? 新技術を用いた遺伝子"編集"作物が登場。アメリカ農務省は規制しない方針

逆に推進側が宣伝するように遺伝子組み換え食品を食べてたり、畜産飼料にGM作物が使われていた場合でもそれ自体が人体に影響があった例はほぼ無いようだが、栽培現場での除草剤耐性雑草の増加や(これは遺伝子汚染による耐性獲得ではなくもともとグリホサートで枯れにくい雑草があり、これが生き残っている植生の変化である)、加工原料としてのGM作物残渣を飼料などに利用した際の畜産動物への影響、遺伝子操作により未知のタンパク質が生産され、それがアレルゲンとなっていると考えられている症状などの問題は残っているようだ

当サイトに協力を頂いている分子生物学者にコメントを求めたところ、今の人類を支えるだけの食糧生産ということを考えると、消費者に選択肢を残した上での新しい技術への取り組みは否定するべきではないだろうとのことであった

なお、米国ではGM作物の表示に関して義務付けられた代わりに、QRコードでリンクを張り、そちらで詳細表示を行えばよいという風に規定された
これはむしろ消費者にとって表示を分かりにくくする逆行した制度だという批判もある

GM大国アメリカ、トランプ政権のアメリカ第一主義、非関税障壁、日米関係などといったキーワードを考えると今回の日本での制度見直しがどのような結果になるかを注視しておく必要もあるだろう


 

 - サイエンス, 農業環境