有機野菜にも落とし穴? 最近のO157発生事情 という記事について
千葉県市川市の介護付き有料老人ホームで、腸管出血性大腸菌O(オー)157の集団食中毒があり、80~90代の男女4人が亡くなった。この老人ホームと同じ給食施設を使っていた東京都羽村市の高齢者施設でも、O157の集団食中毒があり、80代の女性が死亡している。どんなことに、注意すべきなのか。
(中略)
国立感染症研究所の元主任研究官で、大阪府済生会中津病院の安井良則臨床教育部長兼感染管理室長は、家庭での注意点について「浅漬けなどを作る場合は、野菜をしっかりと洗うことが大切だ。そうでないと同じことがまた繰り返されてしまう」と話す。今回は「きゅうりのゆかり和(あ)え」からO157が検出された。12年には北海道で、白菜の浅漬けを原因とするO157の集団食中毒が発生している。「最近は化学肥料などを使わずに栽培される野菜が増え、野菜に肥料の牛のふんなどが付いていることもある。O157が付着したまま調理することがないよう、しっかり洗ってほしい」と呼びかける(ヤフーニュース 朝日新聞デジタル)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160908-00000064-asahi-soci
千葉県の老人ホームに提供された給食を原因としたO-157による食中毒により4人が死亡したという話題
ニュース記事本文で出ているように、こちらに食事を提供した「シーケーフーヅ」は同じ時期に東京でも食中毒による死亡事故を起こしている
8/25に千葉で、8/27に東京でどちらもO-157による食中毒を起こしていることは会社として何か衛生管理に問題があったとされても仕方ない
詳しくはシーケフーヅの公式ページを参照してほしい
この会社がそうであるかは確かではないがたいていこのような業種ではどこかに大きな拠点があり、そこから調理された半完成品が各施設に送られ、再加熱や配膳されて食事として提供される形なのでもし2件の食中毒が共通の原因と判明すれば感染経路も明らかになるかもしれない
少なくとも千葉での事件はきゅうりのゆかり和えが原因ということである
通常このような施設での野菜の加工には普通は次亜塩素酸による殺菌がなされるはずだが、その工程を省いているか、その後加工する段階で衛生管理に問題があるかのどちらかである可能性が高い
きゅうりは意外にも食中毒の多い野菜である(今回がきゅうり原因かは確かではないが)
近年では静岡県で祭りの露店の提供した冷やしきゅうりで大量の食中毒患者を出した例もある
加熱調理されることが少ないこと、水分が多いこと、そのほかに浅漬けなどで出されることが多いのだが、つけ汁が昔より簡易なものとなり微生物が繁殖可能な濃度になっていることが多いのが原因であるようだ
さて、農業ニュースサイトとしては事件よりもその後の識者のコメントに注目したい
「最近は化学肥料などを使わずに栽培される野菜が増え、野菜に肥料の牛のふんなどが付いていることもある。O157が付着したまま調理することがないよう、しっかり洗ってほしい」
これは誤解を招く恐れのある文章である
有機栽培に落とし穴とタイトルが付けられているが、慣行栽培でも堆肥は普通に使用するものである
通常使用される堆肥は易分解性有機物はほぼ残っていないので肥料成分としてではなく土質の改良や地力の向上を狙って施用されるものである
化学肥料+堆肥などの栽培は普通のものであり排他なものではない
さて、堆肥中の大腸菌群の存在はどのようになっているのだろうか
牛などではO157を含む大腸菌群が消化器官内に存在しているが、これは通常堆肥化する際の発酵熱や有機物が消費されることにより死滅し、完熟堆肥中の大腸菌群は存在しないといわれている
しかし種々の堆肥中における大腸菌群等の生残(AgriKnowledge)という論文によると市販されている堆肥のうち4割近くから大腸菌群が検出されたとあるため、現実的には完全に死滅しているとは言えないだろう
そして農水省の過去の生鮮野菜に関する調査を見てほしい
2007~2008年に、初夏から秋にかけて全国の出荷量の6割を生産する産地のレタス、キャベツ、ねぎ、トマト及びきゅうりを対象に腸管出血性大腸菌(O157及びO26)の保有状況を調査した結果、いずれの試料からも検出されなかった。
2006年5月~2007年1月に市販のカイワレ大根等の生食用野菜を調査し、56検体中5検体から大腸菌が検出されたが、いずれも腸管出血性大腸菌ではなかった。
(農水省:食品安全に関するリスクプロファイルシートより)
とある
一般的に販売される野菜類には食中毒の原因となる菌類はついていなかったが、1割の確率で大腸菌が検出されたということになる
ちなみに日本における牛のO157保菌率は10%程度と言われていることから(海外では30%程度とのこと)わずかではあるが直接野菜からが感染源になる可能性はあるといえよう
これは堆肥由来に限らず、水系の汚染や野生動物の侵入など様々な要因があることも注記しておきたい
また食中毒病原による汚染は殺菌の不完全な水耕栽培などの施設栽培でより大規模に起こる可能性があることも注意が必要である
最近ではアメリカでエジプト産イチゴ由来の肝炎集団発生などが記憶に新しいが、これらも栽培に使用した水系の水が汚染されていた可能性が指摘されている
輸入イチゴで肝炎集団発生、スムージーに使用 米国(CNN)
タイトルと識者のコメント(おそらく抜粋だが)を読むと有機農法がさも食中毒を引き起こす原因のように読めてしまう記事だが、作為的な記事作りに惑わされることなく、すべての生鮮物には食中毒のリスクがあることと、その対応策を理解しておくことが大事であろう