ガイアの夜明けのバター不足に関する報道は錯誤を生むものである
バター不足は仕組まれたものだった? 「ガイアの夜明け」放送内容にホクレンが反論「誤解を与える内容」
11月22日に放送されたドキュメンタリー番組「ガイアの夜明け」において、ホクレン関係者が「バターが『なくなるぞ』となったら消費者はとりあえず買う」と笑顔で語り、「バター不足はホクレンのせいだった!?」とネットで炎上中です。ホクレンは編集部の電話取材に対し「放送された内容は意図したものではなく、そもそもインタビューがバター特集用のものであるとも聞いていなかった」と、番組に対する不満を明らかにしました。(yahooニュース ねとらぼ)
http://news.yahoo.co.jp/pickup/6221969
先日放送されたガイアの夜明け「日経スペシャル ガイアの夜明け 巨大"規制"に挑む!〜明かされる『バター不足』の闇〜」の放送内容が話題になっている
その内容はバター不足はホクレン(北海道の農協連合会)の仕掛けた策略で、ホクレン幹部がボロ儲けと笑顔で語っているというものである
そしてそれを受けたネット界の反応はホクレン(=農協と解釈)の闇は深いとか、農協解体100%賛成などという意見も多く見受けられる
しかし当サイトでも扱ったバター不足の原因の本当の理由を知っていればこの報道内容は誤りだとすぐに気付くだろう
4000トン追加輸入=バター不足を回避ー農水省
バター不足の原因は脱脂粉乳の需要低下によるバター製造理由の低下と、加工用乳の補助金がバター用よりもチーズ用の方が高いこと、そして輸入バターに関して農畜産業振興機構による独占取引が行われ、それ以外の輸入ではマークアップと呼ばれる高額な関税がかけられていることによるものである
そして高価で取引されている製品のバターだが、ホクレンの牛乳出荷額は固定であるし、メーカーのバター卸価格はそれほど変動していない
実際にボロ儲けしているのはバター不足が構造的なものであることを理解して流通在庫として確保し、品薄商法で価格を釣り上げている一部の小売り流通業界である
さて、ホクレン幹部がインタビューで語ったとされる部分は以下のようなものだがこれは一般的な消費者心理を語っているだけのように聞き取れる
「消費者の心理としては、たくさんあったら焦って買わないですよね。ところが『なくなるぞ』となったら、いるのかいらないのかよく分からないけどとりあえず買っちゃいます」「そういう消費者心理ってありますよね。わかります?」
世間で品薄だと騒がれるようになった商品に関して、消費者は逆に購買意欲が高まるということを説明している
そのあとのインタビューの続きでは
「バターは品薄くらいがちょうどいい?」という念押しの質問に対し
「安定供給が大事だと思うので、そういうことではないと思う」
と発言している
ただそのあとに出た酪農家が指定団体以外に出荷する意思を示したときに飼料代を割り増ししたり、借入金の一括返済を迫って圧力をかけたということは確実に公取委の指導を受けるような内容であるだろう
報道が取材中ということを察知してすぐに撤回したということからホクレン側も問題のある行為というのは理解しているようだ
いずれにせよ、バター不足がホクレンの指示で行われ、それにより利益を上げているというのは全く見当違いである
バター不足は農水省と農畜産業振興機構によるもの、つまり国政の招いたものである
農協は農家のために1円でも高く売る努力をするべき、と厳しい改革案が出されたが、補助金を含めた農家の牛乳売り渡し額が飲料用と加工用で3割以上開きがある現状ではむしろ加工用に一切牛乳を回すべきではないということになってしまう
この辺りの事情を取材陣が知らないはずはないと思うが、何か農協を批判の標的にしたい意図が働いているのだろうかと勘繰りたくなるような内容である
また今回注目された指定団体ではないMMJがバターを自社生産する工場を作るということ自体は立派なことである
特に加工用補助金が実質的に北海道専用となっていることから、今後この流れが進めば全国各地でのブランドバターなどの生産にも弾みがつくことであろう
しかしこれも現在の日本の牛乳政策により、構造的なバターの高値が続いていることから成り立つ戦略である
万が一バターへの補助金が増額されたり、輸入バターが大幅開放されるようなことがあればたちまち立ち行かなくなってしまうだろう
何しろバターの国際価格は通常の国内価格の4分の1以下なのである(そしてその安さの原因の一つは各国の出している補助金である)
そうした時にMMJと、MMJと契約した酪農家のたどる道はどうなってしまうのだろうか
これは酪農に限ったことではなく、現実に飼料米の補助金に関してそのようなことが行われつつあるのである
当サイト記事:財政審 コメ転作支援の交付金制度見直しを
農業の中で特に補助金の多く絡む品目の水田や酪農にとっては農政の意向により将来の方向性が大きく変わる
現状を改革する必要があるのは誰もが理解しているが、それには何かを切り捨てる必要があることと、新しく始めることは長期にわたって継続していけるしっかりとした内容にする必要があることを心して行って欲しいものである