ドイツのバイエルが米国のモンサント買収へ…世界最大の農薬・種子メーカーに(追記あり)
2016/09/28
ドイツの総合化学メーカーバイエルは、米国の化学メーカーのモンサントを買収することで合意したと発表した。買収額は約660億ドル(6兆8000億円)。
バイエルは農薬で世界2位、モンサントは種子で1位で、遺伝子組み換え種子の開発に強みを持つ。買収が成立すれば、世界最大の農薬・種子メーカーとなる。2017年末までに買収完了を目指す。(yahooニュース)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160916-00010002-agrinews-bus_all
ドイツのバイエル社があのモンサントを買収することになったというニュース
前々から噂は流れていたが実際決定したとなるとかなりインパクトのあるニュースである
世界の農薬・種子メーカーの業界は最近動きが激しい
1990年代初めには15社以上あった世界的に展開する農薬メーカーも統合が進み、ビッグ6と呼ばれる巨大メーカーによって長らく寡占状態が続いていた
かつて世界の農業を牛耳るとまで言われたビッグ6も昨年からの業界再編により4社にまで減ることになる
旧ビッグ6
ダウ・アグロサイエンス、デュポン、モンサント(米国)
BAFS、バイエル(ドイツ)
シンジェンタ(スイス)
↓
新ビッグ4
ダウ・デュポン
バイエル
BAFS
中国化工
ちなみに日本メーカーは住友化学が何とか10位に滑り込んでいるようだ
また、ビッグ6の下にはジェネリック農薬メーカーが食い込んでおり、世界的なジェネリック農薬の市場の大きさがうかがえる
モンサントの買収のオファー自体は以前からあったようだがこれまでは価格面でなかなか調整がつかなかった
結局買収額は約660億ドル(6兆8000億円)で決着したようだ
これはモンサントの負債も受け継いでいるからで、買収額自体は570億ドルらしい
これはドイツ企業による企業買収額の過去最高の数字とのことである
ケム・チャイナ(中国)が、シンジェンタ(スイス)を買収することになったのは以前のニュースだが、今回の額はそれより極端に高い金額らしく、まだ成立までは一波乱あるのではないかと予想されているようだ
米国、欧州の規制当局市場の関係者では買収が承認される確率は50%とみる人もいる
バイエルが遺伝子組み換え作物大手モンサント買収合意、実現には紆余曲折も(newsweek japan)
また、今年4月に製薬メーカーのファイザー(米国)が合併によりアイルランドに本社を移して法人税を逃れようとしているとの指摘を受け合併承認されなかったというニュースがあったが、今回も同じように税金対策の合併ではと指摘する人もいるようだ
しかし今回はバイエル側からの持ちかけであるしドイツはアイルランドより法人税が2倍以上高いので(それでもアメリカより10%は安いのだが)そのような事情ではないように思われる
バイエルは売上が年間約5兆3000億円、モンサントは約1兆5300億円なために、7兆円近い買収額は大きすぎると言うことで市況はバイエル株も下がる方向に反応しているようだ
さて、この背景には作物価格の下落に対して、モンサントの提供するバイオテクノロジーを利用した種子の高騰に農業者がついていけなくなったことが背景にあるといわれている
世界的にも遺伝子組み換え作物とセットで自社農薬を販売し農業を支配している悪の会社というイメージがついてしまい、世界最悪の企業という不名誉なあだ名をつけられたこともある
日本でも農業関係報道やネットでの話題を見るとモンサント=悪として扱われることがほとんどである
これはモンサント社のイメージ戦略の失敗とも言われているが、収量や利益を追求する農業がすでに曲がり角に差し掛かっているということでもあるだろう
モンサント社が初期にもう少し冷静に遺伝子組み換えなどのバイオテクノロジーが議論される土壌を形成していれば世界の農業も違った形であったかもしれない
またバイオテクノロジーが高度化し、新規の農薬や種子の開発に多額の開発費用が掛かるようになってきたこで経営統合により高騰する開発費を少しでも抑えたいという思惑が働いていることも業界再編の原因の一つであるようだ
EUでのグリホサート認可問題(当サイト記事)にもあるように非関税障壁としても扱われるレベルとなり、加えて世界の穀物相場の下落により農家が遺伝子操作されていない種子と多様な農薬に回帰するようになってくるとモンサント社としてもその後の戦略が手詰まりとなってきたようだ
ここで米国同士の会社の合併ではなく、EU圏内の主要国・ドイツのバイエルとの合併を選んだのも世界的に厳しい農業基準のEUで地位を確立することで世界戦略も取りやすくなるということだろうか
ただ、モンサントの提供する遺伝子組み換え植物は米国での大豆やトウモロコシ生産の大部分を占めているし、家庭園禁止法とまで揶揄された食品安全近代化法(Food Safety Modernization Act)510法案にも深くかかわっている企業である
モンサント社の農薬・種子を利用する農業者だけではなく様々な方面で影響のある合併となるだろう
9/28追記
別件で農畜産業振興機構のページを見ているとブラジルでの反応という記事が上がっていたので紹介
ブラジル最大の農業生産州であるマットグロッソ州農業連盟(FAMATO)のルイ・プラード会長は、「市場の寡占化が高まる事で、生産者の調達コストが上昇し、ひいては消費者も影響を被るなどさまざまな不利益が発生すると分析しており、今回の大手2社の統合は懸念せざるを得ない」と述べている。
一方、同州の大豆・トウモロコシ生産者協会(APROSOJA)のエンドリゴ・ダルシン会長は、「世界規模の巨大企業が影響力を強めることで農業資材市場の寡占化が一層進展し、市場競争が弱くなる事は憂慮すべきことであるが、今回のような統合は新技術の開発など期待できる部分もある」としている。
ただ、やはりまだ合併が承認されない可能性があるという不安定要因があるようだ
農業協同組合新聞などでは承認されない可能性のほうが高いだろうという論調の記事も出ている
バイエル社のモンサント買収がなったと14日夜に報道された。本当にこの買収は成立するのだろうか。(農業協同組合新聞)
これによるとアナリストたちは
>アメリカおよびEU、ブラジル、カナダ、オーストラリアの規制当局が調査に入った段階になったとき、「許可がでるのは50%の確率とみるのが妥当」であり「オバマ政権下でもクリントンでもこのM&Aは成立させないでしょう」と分析する
となっているようだ