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米国産セロリに基準超える農薬 厚労省が業者に検査命令

      2016/08/19

セロリ

回収となったセロリ

厚生労働省は16日、米国産の輸入セロリから基準値を超える農薬ビフェントリンが検出されたとして、米国産セロリを輸入する全国の業者に、食品衛生法に基づく検査命令を出した。輸入時にこの農薬の検査を必ず実施することになる。(朝日新聞)

http://www.asahi.com/articles/ASJ8J5V5GJ8JULBJ00B.html


 

米国産セロリから基準値を超える農薬が検出されたという話題
今回が初めてではなく過去にもよく基準値超えで回収される例はあるようだ

今回の成分ビフェントリンはピレスロイド系農薬として、日本では商品名テルスターなどが有名である
そのほかにはシロアリ駆除剤(防蟻剤)などとしても利用されている

さて、今回検出された数値が0.03ppm~0.06ppm、日本の基準値が0.01ppmということで基準値越えで回収となっている
アメリカでのセロリに関するビフェンドリンの基準値は3ppmである
これだけを見ると米国はさすが農薬大国で農薬の基準が日本より300倍も緩いのか!となるところであるがこれには事情がある

日本では平成15年に農薬取扱いについてポジティブリスト制度というものを導入している
これによりその作物に関して農薬の登録ある薬剤が無く、試験結果がないものには、残留農薬基準が一律で0.01ppmという値を採用することになっている(一律基準)
これ以前のネガティブだった場合は基準がないものは残留基準なしで取り締まり対象でなかったのでそれはそれで問題なのであるが、今回はこの一律基準により起こった問題である

セロリを始めとしたマイナー植物は農薬メーカーとしてもその農薬を研究開発や試験する採算が見込めないため使用できる可能性のある農薬であっても農薬登録を取らない傾向にある
そこで登録がない作物は0.01ppmという農薬残留値としてはかなり厳しい基準が採用されることになる
現にこのビフェンドリンの残留基準は登録のあるきゅうり(収穫前日まで使用可能)では0.05ppm、みかん2ppm、こまつなやチンゲン菜では4ppmである
生で食べるものでもレタス3ppm、キャベツ2ppm、トマトでも0.5ppmという基準であり、今回のアメリカ産セロリで検出された数値では数百分の一のレベルで基準値に収まっている
もしセロリについてテルスターが登録使用を取っていたらおそらく0.05ppm以上の値が設定され、今回の米国産も基準値内に収まり回収騒ぎにはならなかったであろう

このことは逆に日本産農産物が台湾などでかなり頻繁に農薬残留基準にひっかかって回収されている事例とも重なる
(参考:当サイト記事・台湾へのかんきつ出荷見合わせ事例
数値の是非は置いておくとして、今後農産物の貿易を促進していくためには各国で基準値が設定されている場合は相手国の試験データなどを利用することも認めるということも検討する必要があるのではないだろうか
逆にEUのようにある程度基準を厳しくして環境保護と、自国の農業保護に役立てるという方法もあるだろう
農産物輸出を進める日本農業だが、相手国のこのような事情を理解してそれに適した基準で農産物を作っていくことがまずは必要だと思わされるニュースである

また、日本国内でマイナー作物を作っている農家はこの問題で大変苦労している
無農薬栽培は日本の気候では難しいが、登録のある薬剤が無い以上通常の農薬はもちろん使えない
ごくわずかな登録のある農薬を駆使して、なんとか生産しているのが実情である

メーカーが採算に乗らないと判断して登録を取らないのは民間企業として仕方ない所であるが、マイナー作物農家からの意見として国内農業の振興の意味でも海外で試験結果のある農薬に関しては何らかの考慮があっても良いのではないか、または行政からメーカーに何らかの働きがあってもよいのではないかと言う声もあがっているようだ

 - 農業環境, 農薬